川越救急クリニックはなぜ赤字?高度医療の集約で経営改善し、スタッフの給料を増やす戦略


 救急患者を年間1,200台受け入れても、年間800万円の赤字。

埼玉県の川越救急クリニックについて、院長は自身のブログで、2025年の赤字や救急医療を維持するための費用について発信しています。

さらに、2026年1月のブログでは、医療機器の保守費用が月100万円以上に上ることや、電子カルテの導入費用が2,000万円だったことなど、経営上の負担を明らかにしています。

この問題を経営の視点から考えると、ひとつの疑問が浮かびます。


高度医療まで自前で抱えることは、本当に経営合理的なのだろうか?

地域の救急を支えることと、あらゆる医療設備を自院で維持することは、必ずしも同じではありません。


この記事では、医療従事者の使命感だけに頼るのではなく、経営を最優先に考えながら、スタッフの給料を増やせる医療機関のあり方を考えます。


1.高度医療をすべて自前で抱えるのは、経営上の最適解なのか

まず、医療機関の経営を一般企業の経営と同じように分析してみます。

事業の利益を増やす基本は、売上を増やすか、費用を減らすか、その両方です。

ところが、救急医療には特殊な事情があります。

  • 患者が来ない時間帯でも、人員や設備を維持する必要がある
  • 高額な医療機器は、購入後も保守や更新に費用がかかる
  • 夜間勤務には人件費の負担が伴う
  • 公的医療保険の診療報酬は、一般企業のように自由に値上げできない

川越救急クリニックの院長は、医療機器の保守費用や仕入れ価格の上昇などを経営課題として挙げています。

ここで考えたいのが、医療機器を保有すること自体が目的になっていないか、という点です。

設備を保有すれば、診療できる範囲は広がります。しかし、設備の購入費や維持費を上回る利益が生まれなければ、経営を圧迫します。

重要なのは、何でもできる医療機関を目指すことではなく、自院で提供する医療と外部に任せる医療を、採算性に基づいて設計することです。


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2.経営第一なら、高度医療は専門病院に集約する

私が経営戦略として検討したいのは、地域の救急クリニックと高度医療を担う病院の役割分担です。

すべての医療機関が同じような高額設備を保有するのではなく、設備や専門人材を集約することで、地域全体の費用を抑えられる可能性があります。


地域の救急クリニックが担う領域

  • 救急患者の初期診察
  • 緊急度の判定と必要な初期治療
  • 自院の設備で対応できる患者の診療
  • 高度医療が必要な患者の専門病院への紹介・搬送

専門病院に集約する領域

  • 高額設備を必要とする高度な検査や治療
  • 専門的な手術や入院治療
  • 地域のクリニックでは対応困難な重症患者の治療

※実際の役割分担は地域の医療体制、患者の重症度、搬送時間、各施設の対応能力に応じて決める必要があります。


この仕組みがうまく機能すれば、クリニックは高額設備の維持負担を抑えながら、得意とする救急診療に経営資源を集中できます。

ただし、高度医療を減らせば必ず利益が増えるわけではありません。設備費が減る一方で、検査収入も減る可能性があるからです。

そのため、設備ごとの年間維持費、利用件数、診療報酬、外部委託費を比較し、実際にどちらが利益を生むかを検証する必要があります。


3.本当の問題は、救急患者を受け入れるための待機コストにある

ここからが、私が特に重要だと考える点です。

救急医療の価値は、実際に患者を診察したときだけに発生するわけではありません。

患者が突然運ばれてきても対応できるように、医師や看護師を確保し、設備を維持し、診療できる状態を整えておくことにも価値があります。

しかし、患者が来なければ、その準備にかかった費用を診療報酬で回収できない場合があります。

これは、一般企業でいえば、注文が入るかどうか分からない状態で、人員と設備を常時確保しているようなものです。


経営上の提案:救急対応の待機能力そのものを評価する

救急患者を受け入れた件数だけでなく、救急対応のために維持している人員、設備、時間帯などを評価する仕組みを検討すべきです。

これは、すべての施設に一律の補助金を配るという意味ではありません。地域に必要な受け入れ能力を維持する費用を算定し、実績や必要性に応じて対価を支払う考え方です。


クリニックが救急患者を受け入れるたびに利益が出るとは限りません。

それでも、地域に必要な救急対応の体制を維持するのであれば、その固定費を誰が負担するのかを明確にする必要があります。

診察した患者から得られる収入だけで、待機に必要な費用まで賄わせる仕組みには限界があるのではないでしょうか。


4.医療機関の経営を変えるなら、患者数よりも利益を生む時間を分析する

経営改善を考えるとき、患者数を増やすことだけに注目するのは危険です。

患者が増えれば売上は増えるかもしれません。しかし、同時に人件費や材料費、残業代が増えるなら、利益は思ったほど増えない可能性があります。

そこで導入したいのが、時間帯や診療内容ごとの採算管理です。


分析項目 確認すること
時間帯別の収支 夜間・休日などの収入と追加人件費
診療内容別の採算 診療報酬と薬剤費・材料費・人員負担
設備別の採算 保守費用、更新費用、利用件数
患者の受け入れ経路 自院で対応する患者と紹介が必要な患者の割合
スタッフの労働時間 残業、業務の重複、時間当たりの人員負担

この分析によって、どの診療が利益を生み、どの業務が赤字を拡大させているのかを把握できます。

ただし、採算が悪いという理由だけで、必要な初期対応を省いたり、緊急度の高い患者を不適切に断ったりすることは、経営上のリスクにもなります。

目指すべきなのは、患者を選別して収益を上げることではなく、医療機関の役割と対応能力を明確にし、無理な設備投資や業務の重複を減らすことです。


5.最終的な目的は、院長の利益ではなくスタッフの給料を増やすこと

ここまで経営効率について考えてきましたが、私が最も重要だと思うのは、経営改善によって生まれた利益をどう使うかです。

設備を減らし、外部連携を進め、業務を効率化したとしても、その利益が借入金の返済や内部留保だけに回り、スタッフの待遇が改善されなければ、現場で働く人にとって経営改善の実感は得られません。

もちろん、借入金の返済や設備更新のための資金も必要です。しかし、長期的に医療機関を維持するには、スタッフが働き続けられる待遇を整えることも重要です。


提案:利益改善分の一部を、スタッフの賃金改善に充てるルールをつくる

例えば、経営改善によって年間の利益が増えた場合、その一部を賞与や基本給の引き上げに回す仕組みです。

配分率は固定せず、借入返済、設備更新、運転資金、将来の赤字リスクを考慮したうえで、持続可能な範囲で設定します。

ここで、仮に年間300万円の利益改善が実現したとします。

そのうち100万円をスタッフの賃金改善に回し、残り200万円を借入返済や設備更新などに充てるケースを考えます。

年間の利益改善額 300万円
スタッフの賃金改善に充てる額 100万円
返済・設備更新などに充てる額 200万円

これは実際の川越救急クリニックの収支予測ではなく、利益配分の考え方を示す試算です。

実際にスタッフへ支給する際には、社会保険料などの事業主負担も考慮する必要があります。また、一時的な改善と恒久的な基本給の引き上げは分けて考えなければなりません。

それでも、利益改善と賃金改善を結び付けるルールがあれば、経営効率化の目的をスタッフにも明確に示せます。

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6.経営再建の順番を間違えてはいけない

赤字が続く医療機関が、すぐに人件費を増やすのは難しいでしょう。

だからこそ、私は次の順番で経営再建を進めることを提案します。

  1. 現状を数字で把握する。 診療内容、設備、時間帯ごとの収支を分析する。
  2. 固定費を見直す。 利用頻度の低い設備、保守契約、業務の重複を検証する。
  3. 専門病院との連携を整える。 自院で担う医療と外部に任せる医療を明確にする。
  4. 救急対応の費用を適切に評価する。 診療報酬や公的支援を含め、待機に必要な費用を検証する。
  5. 資金繰りを安定させる。 借入返済、設備更新、運転資金を確保する。
  6. 利益改善を賃金に反映する。 継続的に支給できる範囲で給与や賞与を改善する。

この順番なら、経営改善を単なる経費削減で終わらせず、スタッフの待遇改善につなげることができます。


7.救急医療を守るために、すべての医療機関が同じことをする必要はない

高度医療を提供する大病院と、地域の救急患者を受け入れるクリニックでは、必要な設備も人員も異なります。

それなのに、医療機関の区分だけで支援額が決まり、実際に担っている救急医療の負担が十分に評価されないのであれば、制度を見直す余地があります。

川越救急クリニックの院長は、2026年2月のブログで、2025年に救急車を約1,200台受け入れた一方、当時の国の支援制度では4床分で34万円の支援にとどまる見込みだったと説明しています。

これは院長による当時の制度説明であり、現在の支援額を示すものではありません。しかし、救急医療の現場でどのような費用が発生し、どのような支援が必要なのかを考える材料になります。

経営を持続させるには、現場の努力だけでなく、医療機関ごとの役割に合った報酬や支援が必要です。


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まとめ:医療の質を維持しながら、利益を生み、スタッフに還元する

経営第一の視点から考えると、川越救急クリニックのような医療機関が検討すべきなのは、すべての高度医療を自院で抱えることではありません。

  • 高度医療は、採算性と対応能力を踏まえて専門病院への集約を検討する
  • 設備の購入費や保守費用を分析し、固定費を適正化する
  • 診療内容や時間帯ごとの収支を把握し、利益を生む業務構成を考える
  • 救急対応のために維持する人員や設備の費用を、適切に評価する
  • 利益改善の一部を、スタッフの賃金改善に結び付ける

ただし、これらは経営改善の提案であり、川越救急クリニックの内部会計を確認したうえでの確定的な経営診断ではありません。

医療機器を減らすことが必ず利益につながるわけではなく、専門病院への紹介にも費用や調整負担が発生します。実際の収支を確認しながら判断する必要があります。

私が考える、救急医療の経営改革

救急医療を担うことと、すべての高度医療を自前で提供することは別です。

地域のクリニックは初期対応に強みを持ち、専門病院は高度医療に集中する。各施設が得意分野に経営資源を集め、必要な費用を回収できる仕組みをつくる。

そして、そこで生まれた利益を、借入返済や設備更新だけでなく、現場を支えるスタッフの待遇改善にもつなげる。

医療機関の経営改善は、赤字を減らすだけでなく、働く人の給料を増やし、翌年も医療を提供できる仕組みをつくることまで含めて考えるべきです。

救急医療を守るために必要なのは、医師や看護師の自己犠牲を増やすことではありません。

必要な医療を、適切な場所で、持続可能な費用構造のもとで提供すること。そして、経営が改善したときには、その成果を現場で働く人にも還元することです。

あなたは、救急クリニックが高度医療を専門病院に集約し、初期対応に特化する経営戦略について、どう考えますか?

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※本記事は、院長ブログで公開された情報と、それをもとにした経営上の考察を区別して構成しています。設備別の実際の収支や、経営改善による利益額は公表資料だけでは判断できないため、提案部分は一般的な経営戦略として記載しています。

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